生成AI利用ガイドラインの作り方。サービス名ではなく操作で書く
コピーして使える生成AI利用ガイドラインの雛形(10条)。条文ごとに、その条文を置く理由と、よくある失敗を付けています。サービス名ではなく、入力・貼り付け・アップロードの操作単位で書く。
コピーしてそのまま使える、生成AI利用ガイドラインの雛形(10条)です。中堅企業の情報システム部門が、既存の情報セキュリティ規程の下位規程として置くことを想定しています。条番号は既存規程に合わせて振り直し、第5条の情報区分は自社の呼び方に差し替えてください。
条文の下には、その条文を置く理由と、よくある失敗を書いています。理由が分かると、自社向けに書き換えるときの判断がぶれません。
先に結論。サービス名ではなく、操作と情報で書く
多くのガイドラインは、使ってよいサービスの一覧という形で書かれています。ChatGPTは可、それ以外は申請制、といった具合です。この書き方は、3つの理由で守られなくなります。
- 一覧は作った瞬間から古くなる。新しいサービスは毎週のように出て、既存のサービスも名前や提供形態を変えます。申請制にすると、申請が面倒な人ほど申請せずに使います。
- 同じサービス名でも中身が違う。ChatGPTの個人向けプラン(無料版やPlusなど)は、設定でモデルの改善への利用をオフにしない限り、会話が学習に使われることがあります。一方、ChatGPT Business、Enterprise、APIは既定では学習に使われません。ChatGPTは可、とだけ書くと、どちらも可と読めてしまいます。
- 事故を分けるのは、どのサービスを使ったかではなく、何を入力したかです。会社契約のAIでも、顧客の個人情報を貼り付ければ事故になります。
もう一つ。書いただけでは守られません。規程は、守られているかを確かめられる単位で書く必要があります。その単位が、操作(入力・貼り付け・アップロード)と、情報(入力してはいけないもの)です。
雛形(10条)
第1条(目的)本ガイドラインは、当社の業務における生成AIサービスの利用に伴う情報の取り扱いを定め、情報漏えいを防止しつつ業務の品質と速度を高めることを目的とする。
- なぜ:原則禁止から書き出すと社員は読むのをやめ、ルールの外で使い始める。安全に使うための約束だと最初に示す。
- 失敗例:利用の制限から書き出した規程。読まれず、利用が個人端末に移る。
第2条(定義)「生成AIサービス」とは、文章、画像、コード等を生成する外部の情報サービスをいい、ブラウザ、専用アプリケーション、ブラウザ拡張機能のいずれで利用するかを問わない。「会社アカウント」とは、会社が契約し管理者を置くアカウントをいい、「個人アカウント」とはそれ以外のアカウントをいう。「生成物」とは、生成AIサービスが出力した文章、画像、コード等をいう。
- なぜ:会社アカウントと個人アカウントを言葉として分けておかないと、第4条以降が書けない。拡張機能を含めるのは、拡張機能経由の入力が見落とされやすいため。
- 失敗例:ChatGPT等の生成AI、と製品名で定義する。名前が変わるたびに改訂が要る。
第3条(適用範囲と責任者)本ガイドラインは、当社の全ての役員及び従業員(派遣社員及び業務委託先の要員を含む)が、業務のために生成AIサービスを利用する場合に適用する。本ガイドラインの主管は情報システム部門とし、各部門の長は所属員の利用状況を把握する責任を負う。
- なぜ:誰が持ち主で、誰が承認するかが決まっていない規程は、事故のとき誰も動けない。主管部門と各部門の責任を先に書く。
- 失敗例:適用範囲を従業員だけにして、業務委託先の作業者が対象外になる。
第4条(利用できるサービスとアカウント)業務における生成AIサービスの利用は、情報システム部門が承認したサービスを、会社アカウントで利用することを原則とする。個人アカウントを業務に用いてはならない。ただし、公開情報のみを扱う場合で、所属長が認めたときはこの限りでない。承認していないサービスの利用を希望する者は、情報システム部門に申請する。情報システム部門は、承認したサービスの一覧を維持し、従業員が参照できるようにする。
- なぜ:会社契約と個人契約は、同じ画面でも契約条件が違う。承認済みサービスの一覧は、監査や取引先から最初に求められる文書でもある。申請の窓口を書いておくと、黙って使う人が減る。
- 失敗例:会社アカウントを用意しないまま個人アカウントを禁止する。禁止しても使われ、しかも会社からは見えなくなる。社内で止めても、自分のスマホに入れれば同じだから。
第5条(入力してはならない情報)従業員は、生成AIサービスに対し、次の情報を入力し、貼り付け、又はファイルとしてアップロードしてはならない。(1) 顧客、取引先及び従業員の個人情報 (2) 未公開の財務情報及び経営情報 (3) 顧客から預かった資料及びデータ (4) 社外秘に区分された文書、設計情報及びソースコード (5) 前各号に準ずるものとして情報システム部門が指定する情報
- なぜ:機密情報とだけ書くと、判断が各自に委ねられる。名詞で列挙し、区分ごとに社内の実例を1つ添えると、読んだ人が自分の業務に当てはめられる。
- 失敗例:禁止をひとつの文にまとめてしまい、アップロードが対象だと気づかれない。入力・貼り付け・アップロードの3つを条文に書く。
第6条(操作ごとの扱い)前条の情報を含む可能性がある場合、従業員は次の操作を行う前に、対象の情報を削除又は匿名化する。(1) 入力欄への入力及び貼り付け (2) ファイルのアップロード (3) 生成AIサービスと連携する拡張機能の導入
- なぜ:入力と貼り付けは文章作成の途中で起き、アップロードは集計や要約の作業で起きる。場面が違うので、操作ごとに、やる前に何をするかを書く。事故の多くは、この操作の瞬間に起きる。
- 失敗例:拡張機能を書き忘れる。ページの内容を読める拡張機能は、入力欄に貼り付けなくても情報を送れる。
第7条(生成物の取り扱い)従業員は、生成物を業務に用いる前に、内容の誤り及び第三者の権利を侵害するおそれの有無を確認する。生成物を社外に提供するときは、確認した者を記録する。
- なぜ:誤りや第三者の権利物は、入力ではなく生成物の共有で外に出る。入力の規程だけでは、この経路が抜ける。
- 失敗例:入力の禁止だけ書き、出力の確認を書かない。
第8条(記録と確認)会社は、情報漏えいの防止及び事故時の確認のため、業務端末における生成AIサービスへの入力、貼り付け及びアップロードの記録を取得することがある。取得する項目、暗号化の有無及び保存期間は別途定め、従業員に周知する。情報システム部門は、承認したサービスの一覧と前項の記録を、監査に提示できる状態で保管する。
- なぜ:守られていることをどう証明するかは、顧客や監査から聞かれる。答えられるのは記録だけ。記録を取る根拠を規程に置いておく。
- 失敗例:記録の取得を周知せずに始める。従業員の不信を招き、規程そのものが守られなくなる。
第9条(相談、報告及び違反時の扱い)従業員は、本ガイドラインの適用について判断に迷うとき、又は第5条の情報を誤って送信したと認識したときは、速やかに情報システム部門に相談又は報告する。自ら報告した場合、その事実を不利益に扱わない。情報システム部門は、報告を受けた事案を記録し、必要に応じて関係部門及び法務部門と対応する。故意又は重大な過失による違反は、就業規則の定めに従う。
- なぜ:本人からの申告が、事故対応の最短経路。相談、報告、違反時の扱いを1条にまとめると、従業員から見た連絡先が一つになる。
- 失敗例:懲戒だけを書く。誤送信を隠され、発覚が遅れる。
第10条(教育及び見直し)情報システム部門は、従業員に対し、入社時及び年1回、本ガイドラインの内容を周知する。情報システム部門は、生成AIサービスの利用状況及び記録を踏まえ、本ガイドラインを少なくとも年1回見直す。承認したサービスに、自律的に操作を行う機能又は外部システムと連携する機能が追加されたときは、期日を待たずに見直す。
- なぜ:サービスも使われ方も変わる。とくに、承認したときには無かった自動操作や外部連携の機能が、後から付くことがある。周期と例外の条件を決めておかないと、初版のまま放置される。
- 失敗例:必要に応じて見直す、とだけ書く。誰も見直さない。
公開する前の確認
- 主管部門と、各部門の責任者が決まっている
- 承認したサービスの一覧が、従業員の見られる場所にある
- 情報区分ごとに、代表的な具体例を3つ以上書けている
- 入力、貼り付け、アップロード、生成物の共有のそれぞれについて扱いが決まっている
- 会社アカウントと個人アカウントを見分ける手段がある
- 禁止した操作が実際に行われたとき、気づける仕組みがある
- 記録を取る場合、取得項目と保存期間、暗号化の有無を従業員に周知している
- 相談窓口と、事故時の連絡経路が1行で書けている
- 教育の機会と、見直しの周期・担当が決まっている
- 個人情報保護法上の整理(外部サービスへの入力が第三者提供や委託に当たるか)を法務と確認した
すべてにチェックが付かなくても、ガイドラインを出すこと自体は止めなくて構いません。ただし、見分けられない、気づけない、と答えた項目は、運用の仕組みで補う前提だと社内で共有しておいてください。条文だけが先行して、現場から守れないルールと受け取られるのが、いちばん避けたい状態です。
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